また、いつか出会う、その空の下で

南栄生島には、様々な人が住んでいた。やさしい人、厳しい人、嫌な人、愛しい人…いろんな人が居た。
様々な事情で、人は島を出て行って、些細な出来事で、人は戻ってくる。
それは、どんな小さな理由でもいい。戻ってこれる理由があるのは良いことなのだろう。、

世間では春休みともなる3月下旬…同窓会という名目で、サザンフィッシュに集った人数は、両手の指で足りるくらいの数。
それでも、集った仲間達は、皆一様に懐かしい顔ぶれで…早めの夕食をつつきながら、久しぶりの再会に話を弾ませていた。
小一時間ほど時間が経過し、俺は同窓会の幹事となった、この島一番の友人とカウンター席に着き、今日何度目か分からない乾杯をした。

「しっかし、懐かしいよなぁ、航と一緒に馬鹿やった日々がさ」
「ああ、昔はよく、お前と無茶をしたもんだよな」

既に一児の父となっている雅文と酒を酌み交わしながら、しみじみと昔を思い出して溜息をつく。
高校生の3年間、もっとも親しい悪友だった相手は、昔と差ほど見た目も変わってない。

「いや〜、いまかんがえるとさ、よくあんだけの事が出来たもんだと思うよ。今やれっていっても、無理だよな」
「まぁ、夏休み丸々使って、東京めぐりなんて、社会人には無理な話だよな」

高校1年の夏………退廃と享楽の旅を思い出して、しみじみと吐息を漏らす。
昔は色々と、持て余しているものが多かったからだろう。今思うと、恥ずかしい事をよくしでかしたものだ。

大学の4年を終えて、出水川重工系列の内定と、南栄生島の教職免許を取った俺は、今年、この島に戻ってくる。
早めの里帰りとなる同窓会で、かつての仲間達と顔をあわせたせいか、思い出すのは高校の頃のことが主だった。

「ま、社会人じゃなくでも、妻子持ちの俺にゃ、遊べる金を得るのも一苦労なんだがな」
「随分と、尻に敷かれてるみたいだな。ま、昔っからそうだったけど」
「うるせー。俺にゃ、選ぶ権利なんかなかったんだよ! よりどりみどりだったお前に言われたくはないぞ」

口ではそう愚痴をこぼしているが、雅文の顔は、まんざらでもない様子だ。
おしどり夫婦として、しばらく前には赤ん坊も出来た雅文は、妻である紀子と一緒に、南栄生島で暮らしている。
しばらく前、携帯メールに添付された、赤ん坊の写真に仰天したのは、記憶に新しい。

「よりどりみどり、ってもなぁ。お前みたいに結婚してるわけじゃないしな」
「しょうがねぇだろ! 出来ちまったんだから!」

今度は後悔しているのか、雅文の声が半泣きになる。まぁ、二十代前半でパパというのは、少々厳しいかもしれないな。
それにしても、あれから5年経つのか………不意に、懐かしい記憶がよみがえる。

丘の上のつぐみ寮…なんだかんだと騒動の末、結局のところ、取り壊されもせずに、それは未だに残っていた。
俺たちの勝利の証――――かつての思い出の地は、今は南栄生島の歴史博物館として、地域の住民の憩いの場所となっている。

「だいたい、俺だってなぁ…後悔してるわけじゃないけど、もうちょっと青春の日々を送りたかったんだぞぉ」
「はいはい、分かったって。隆史さーん、こいつに水、やっといて」

カウンターの奥に声を掛けると、俺は席を立った。雅文や、他の皆には悪いが、今日はこれから、用事がある。
丘の上にある寮の庭で、これから始まる、もう一つの同窓会に顔を出さないといけないのだ。
同窓会に集った悪友達――――つぐみ寮組とは別の懐かしい顔ぶれに挨拶をしながら、俺はサザンフィッシュを出た。

外は見事な夕暮れ時………この時分なら、宴会場につく頃には、そこは綺麗な夜桜で覆われているだろう。
5年ぶりの再会………きっと、色々と変わったこともあっただろう。しかし、変わらないものも確かにある。

過ぎ去った日の思い出と、これから出会う再会に…約束の歌を口ずさみながら、俺は日の暮れはじめた道をゆっくりと歩き出した。





作者コメント

投稿第4弾となります話は、航×雅文の一幕――――大人になった二人の酒飲み話という内容になりました。
ちなみに、この5年後の航が誰と結ばれているのかは、未決定です。

本当は、当方のサイトで行っている茜SSの、七人目の嫁の空白部分…「生徒会室〜〜サザンフィッシュ」間の、
〜第●回、つぐみ寮緊急総会、七人目の嫁の正体を暴け!〜
というくだりで、酒飲んで航に絡む会長とか、べろんべろんに酔っ払った凛奈&さえちゃんとか、
おろおろしつつも聞き耳立てる海己とか、さりげなく美味しい所を取ろうとして失敗する宮とか、
○○○○○、○○○○○○○○○○○静とかを書こうとしましたが、諸所の事情で間に合いそうにもないので、こうなりました。

思えば随分と、こんにゃくについて色々とかいたものです。
こういう場を提供していただいた、管理人さんに感謝を込めて、締めの言葉とさせていただきます。

Written by ルイト