罪―――「よくないことをしたことに対する責任」

私は自分のしでかした行為に重さに気付き責任を取ろうとした。
責任の内容は傍から見ればただの自己満足にしか見えないかもしれない。
それでも私は責任を取ろうとした。
私がこの高見塚学園を、つぐみ寮を出て行くその時まであなたの面倒を見る。
あなたが私を許さなくてもそれは仕方がない。
それでももし許してくれるのであれば……




「ハァ……」

ドアのまえでノックしようとした時、つい溜め息が漏れた。
期末テストまで後少し、ここ数日は寮に帰ってからは毎日勉強、勉強で疲れっぱなしだ。
今日も、帰ったら部屋まで来なさいと会長に言われてたので来たんだがやっぱり気が滅入る。
とりあえず気合を入れなおしてからドアをノックする。

「(コンコン)会長、入っていいか?」
「……いいわよ」

ドアノブを捻り中に入る。
中ではすでに教科書を広げて勉強している会長がいた。
こちらに眼を向ける事無くシャーペンを走らせているのでいつもの様に会長の向かいに座り教科書とノートを広げて行く。
とりあえずわからない所が出るまでは海己から借りたノートと教科書に眼を通すことにした。

「会長、ここなんだけど……」
「ん?」

しばらくしてよくわからない所が出てきた。
とりあえず考えてみたけどわかりそうにないので会長に声をかける。

「えーっと、航。例えば「5P2」と「5C2」の違いってわかってる?」
「確か5C2の方が複雑ってことだけは……」
「(ガクッ)最初から説明しないと駄目な気がしてきた……」

手で額を押さえながら哀れんだ眼差しをこっちに向ける。
そんなアホな子を見るような目でこっちを見るのは止めれ。
どう説明しようか考えているのだろうか、ちょっと沈黙が訪れたが後ろの方から聞きなれた声が聞こえてきた。

「(コンコン)奈緒子先輩、いらっしゃいますか?」
「? 宮か? どうした」
「あれ? 先輩もいらっしゃるんですか?」
「テスト勉強でな……」

とりあえず部屋の主をほっといて会話をする。

「私も勉強見てもらいたいんですが入っていいですか?」
「ん? いいんじゃないかな、なあ会長?」
「いいわよ。入ってらっしゃい」

会長から了承を得た宮が部屋に入ってくる。
そういえばこいつ、静の勉強を任されてるんじゃなかったっけ?

「静は?」
「静ちゃんなら寮に帰ってきてからどっか行っちゃいました」
「土手……かな?」

静が良く行きそうな場所を考えてすぐ土手が浮かんできた。
まあ夕飯までには迎えに行かないといけないが、とりあえず今は自分の事をやらないと。

「で、何を見てもらうんだ?」
「英語です」
「……本場の血を引いてるモンが日本人に英語を学ぶってなかなか滑稽なものがあるよな」
「ああっ!? そんな事言うなんて酷いです。でも以前お祖父さまがおっしゃってました。『英語と言いつつも実際教えていたのは米語だがね』って。だからわからなくても仕方が無いと思いませんか?」
「方言レベルの違いしかない気がするぞ。まあ宮の中身は完璧な日本人だからなぁ。髪の毛とかにちょっと英国の血が見られるだけでそれ以外は違和感ないし」
「でも先輩よりは英語詳しかったりするんですよ。例えば『How I want a drink alcoholic of course, after the heavy lectures involving quantum mechanics.』 日本語に訳すとですね『量子力学を含む難しい講義の後は酒の一杯でもやりたいものだ』って感じですかね」
「ん? 量子力学? なんだそりゃ」
「これはですね文の意味ではなく、文字数に注目するんです。前から順に3、1、4、1、5、9、2・・・つまり英語における円周率の覚え方なんです」
「πで十分だろ」
「ああっ!? そんなこと言ったら「富士山麓オウム鳴く」なんて√5で十分じゃないですか」
「こら、そこの夫婦漫才。あんたたちはここに何しに来たの?」

会長がキツイ目線でこっちを見てる。
自分の時間を削って後輩の勉強見てる会長のことを考えると怒っても仕方がない。

「す、すまん会長。真面目にやる」
「ごめんなさい」
「ん。で、航。さっきの質問だけど……」

少し集中が途切れていたが気持ちを切り替えて教えてもらう。
俺の隣に座った宮は会長が俺に教え終わるまで待っている。
会長の言う事がなんとなくではあるが理解できたのでもう一度問題に取りかかる。
会長が俺に教え終わったので次に宮が質問をし始めた。

「ここなんですけど……」
「えーっと、『私はその親子はまるで姉妹のように見えた。母親の名前はリョウコ。娘の名前はコユキ。二人で仲良く暮らしていた』で、どこがわからないの?」
「このlikeが……」
「このlikeは動詞じゃなのは分かる?位置的におかしいでしょ。likeを動詞で使わない時は「〜のように」って訳すの」
「なるほど〜、分かりました」

宮が質問を終えそれぞれが自分の勉強にとりかかりしばらく時間が流れた。
隣で一段落したのか宮が背伸びをしている。
「ハァ〜」と声を出して腕を下ろす。
宮が部屋の時計を見ようと視界を動かした時、何かを発見したのだろうか、

「先輩、動かないで下さいよ」

と言って右手を俺の首筋の方ににゆっくり動かしてきた。
もしかして蚊か?
言われた通りそのままじっとする。
しっかりしとめろよ宮、と思っていたら予想だにしない痛みが首筋に走る。

「えい」
「いてぇぇぇぇ」

あまりの痛みに膝が浮いて机を蹴り上げる。

「航っ! 真面目にやりなさい!」
「俺は悪くねぇ! おい、宮、なんでヒゲ引っ張ってんだよ!」
「ああっ、そ、その一本だけふわふわしてたので抜いてあげようかな〜と思って」
「ヒゲは抜くんじゃなくて剃るの。むっちゃ痛かったぞ」
「ごめんなさ〜い」
「わ、航。私も間違って怒っちゃってゴメン」
「ん? ああ、会長が気にする必要なんてないぞ。宮〜」

とりあえずアイアンクローで宮を攻撃してみる。

「あいたたたたたた。ず、頭蓋骨の形が変わっちゃいます〜」
「こら、航。謝ってんだから止めなさい」

会長に言われたのでとりあえずアイアンクローから解放する。
アイアンクローから解放されたせいで体に力が入ってなかったのだろうか、宮の体がこちらの方に倒れこんできた。
宮の顔が俺の胸に当たる。
条件反射か両手で宮を受け止める。
傍から見れば恋人同士がじゃれあっているように見えてもおかしくはない。
痛みから解放された宮が俺の胸で抱かれている事を認識したのか、少し赤い顔をしながら上目つかいで見つめてきた。

「な、なんだよ……」

俺も宮もお互いが何か言い出すまで動き出しそうになかった。
ただ見つめあままった時間が過ぎようとしたが

「コホン、とりあえずその続きはテストが終るまで却下。宮、静探してきてくれない。私はこの馬鹿の勉強見ないといけないから」

二人して現実に戻り慌てて離れる。
宮は慌てたまま文房具を腕に抱えて

「し、静ちゃん探してきます」

と声を残して部屋を出ていった。
とりあえず俺はもう一度勉強するためにさっき膝で机を蹴り上げてしまって乱雑な状態のノート類を整理し、気持ちを切り替えて問題に取りかかる。

「いい雰囲気だったわね」
「な、なにが?」

切り替わらねぇ!
会長の急な質問に動揺してしまった。

「いえ……何も」

それから夕飯まで会長によるマンツーマンの指導が行われた。
昨日と比べてきつかったのは気のせいか?




いつでもそっと見つめてる
あなたのその心がここになくても……




作者コメント

 香奈子、里伽子、奈緒子と丸戸さんのシナリオでは○○子のキャラが好きなBLOです(後、涼子さんも好きです)。
とりあえず宮穂って動かしやすいなぁと前置きした上で、奈緒子が自分で戒めを作って守ろうとするも人間だから嫉妬しちゃうところとか書きたいなとか思ったんですよ。
 で、その相手は誰かふさわしいか考えて、動かしやすい宮穂とのORBIT-3(三角関係)を書いたのですが実際にはまったく三角関係じゃない、というか奈緒子の嫉妬も書けたかどうかわからない。
個人的には

「わ、航。私も間違って怒っちゃってゴメン」
「ん? ああ、会長が気にする必要なんてないぞ。宮〜」
とりあえずアイアンクローで宮を攻撃してみる。

この場面で奈緒子が軽視されてちょっと怒っている様子を上手く書きたかったんですが出来なかったのが残念です。

 駄文ですが少しでも何か感じてもらえたらうれしいです。
 ちなみに「How I want〜」の所はある推理マンガから知りました。日本人はスペル覚える方が大変ですね。

Written by BLO