ライダーさんの平凡な一日 第7話「帰還」


 その男は、聖職者と言うわけではない。
 しかし、男のもとには様々な人物が救いを求めてきた。
 その男は、指導者と言うわけではない。
 しかし、男のもとには様々な人物が相談に訪れた。
 そして、男はそれに応えてきた。
 自分ができる限りの助言を行った。
 いつの日かそれは評判を呼び、男のもとにはさらに様々な相談が寄せられるようになった。
 それでも男は応えつづける。
 一人でも多くの人物を救うために。





 男の後ろには、大きな看板があった。

『午後は○○お○いっきりテレビ』

「で、どうしたの奥さん」
 電話機から転送された音声はスタジオ内に流れている。
『いえ、私は奥さんというわけではないのですが……』
「よしわかった。そんじゃお姉さん、どうしたの?」
『私のそばにいる男性にまとわりついている女がいまして』
「ふんふん、それで?」
『自分の身体を使ってその男性を骨抜きにして、囲い込んでしまっているのです』
『まあ』
『えー』
『そんなぁ』
「で、お姉さんはその男の人を助けたいわけだ」
『はい……』
「それじゃあ一言言わせて貰おうかな。まず諦めちゃ駄目だ」



 どかんばきんつーっ、つーっ、つーっ

「何をするのですかサクラ。電話機が壊れてしまったではありませんか」
 そう。さっきまでみのさんとライダーを繋いでいた電話は桜の放ったガンドで粉々にされていた。
「『何をするのですか』じゃありませんっ! 何ですかさっきの電話はっ!!」
「日々の生活の悩みを相談してみようかと」
「それなら他のだれかにしなさいっ! あんな番組に電話するんじゃありませんっ!!」
「しかし、タイガの家のお手伝いさんたちに聞いたら『困った時はみのさんよ』と」
「間に受けるんじゃありませんっ!!! まず家族に相談しなさいっ!!」
 桜は激昂している。
 ライダーはしれっとしている。
 テレビに映るみのさんはもう次の相談を受けている。さすがプロ。
「それに、さっきの相談内容はなんですかっ! 誰が先輩をその、骨抜きにして囲い込んでるなんて!」
「私はただ『男性を骨抜きにして囲い込んでいる女がいる』と言っただけです。それとも、サクラには何か心当たりでもあるのですか?」
「ライダーの周りにいる男性といったら、先輩ぐらいしかいないじゃない」
「……」
「……」
「……タイガー、ゴー」
「ふぎゃっ!」
 ばりばりばりばり
「きゃっ!」
 タイガーは桜に襲い掛かった。
 確かにライダーは桜のサーヴァントだが、タイガーはあくまでライダーの飼い猫である。
 主の危機を察知して攻撃してくれるなんて、なんという忠義。
「っていうか今、『ゴー』って言ったでしょ!」
 いや、ナレーションに文句言われても困る。
「ああもうっ! とりあえずなんとかしなさいっ!」
「ああ、だめですよたいがー。さくらをひっかいたりしちゃ」
「……激しく棒読みな気がするのは気のせいかしら?」
「私は悲しい。サクラはいつから自分のサーヴァントを信じられなくなったのか」
「いいからこの猫とっとと剥がさないと、肉塊に変えるわよ」
 かなり本気で言っているっぽい桜の殺気を感じたのか、タイガーは脅えたようにライダーの影に隠れる。
 そしてライダーは、
「ええ、飼い猫を虐待して……」
 引続き電話で相談を。

 ぐしゃばりぼきぼきぼき。

 桜の足元から伸びた影が電話機を食らいつくした。
 さっき壊れたのは子機で今回は親機。
 衛宮家の電話は全滅してしまった
「ライダーっ!」
 電話機を破壊しきった後にそう叫んで周囲を見た時には、もう彼女のサーヴァントはどこにもいなかった。








 そして、ライダーはと言うと。
「久しぶりね」
「はい、お久しぶりです。リン」
 そう。ライダーはロンドンに来ていた。
 あの後、桜から逃げ切ったライダーはペガサスに乗ってノンストップ二十四時間空の旅。
 まあそのあと色々苦労したけど何とか凛の工房を発見して尋ねてきたのだった。
「まったく、何事かと思ったわよ。珍しく客が来たと思ったら日本にいるはずのあなただったんだから」
 そう言いながら凛は紅茶を入れる。
 そして二人は優雅に紅茶を一口ずつ味わう。
「それで、何? まさか観光に来たとか、わたしの顔を見に来たとか言うわけじゃないんでしょう?」
 あくまで優雅に、そして不敵に微笑みながら問い掛ける凛を前にライダーもまたくすり、と微笑んで答える。
「ええ。貴方に提案があります」
「何かしら?」
 そしてまた紅茶を口に含み、
「士郎が欲しくありませんか?」

 ぶっ!

 思いっきり噴き出した。
 さっきまでの優雅な仕草がすべて台無し。
「な、な、な……」
「いりませんか?」
 あくまで平然とした顔で首をかしげ、問い掛けるライダー。
 凛は顔を真っ赤にしてしばらくぷるぷると震えていたが、思いついたように手に持った紅茶を一気に飲み干し、深呼吸してから口を開いた。
「何言ってるのよ突然っ!!!!!」
「リン、別に隠す必要はありません。っていうか貴方が士郎に好意を持っていることを隠せていると思ったんですか本当に」
 ふうやれやれ、と肩をすくめて首を振るライダー。
「確かにサクラは強いし士郎はサクラの恋人です。でも士郎だって男なんだから我慢できなくなっちゃえばいけます」
 言って何かを思い出すライダー。
 自分が知ってるのとは明らかに違うライダーを見てちょっと引く凛。
 これも成長って言うんだろうか。
 しかしライダーはそんな凛の考えなんぞ全く気にもせずに言葉を続ける。
「私一人で士郎をサクラから奪うのは難しい。そして、それはリンにとっても同じことでしょう」
 そう言ってティーカップをテーブルの上に置く。
「簡単な問題です。このまま士郎をサクラに独占させるか、とりあえず手を組んで状況を変えてみるか」
 それを聞いて凛は思い悩み、
 数瞬後にはがっしりと握手を交わした。





 そして一ヵ月後、ロンドンから帰国した凛と桜の間で行われた痴話喧嘩は某蒼崎さんちの姉妹喧嘩にも匹敵するものだったと言う。





「士郎、怪我はありませんか?」
「いつもいつもありがとう、ライダー」
「いいえ、士郎のためですから」
 そして、そんな戦いの影でライダーは士郎攻略のフラグを立てたりしてたと言う。





後書きとおぼしきもの

 つわけで、じわじわ進んでいるライダーSSです。
 7話に入って一応1/2クール消化したので新キャラ出しててこ入れ……ごめん嘘。
 そろそろ凛交えた話書きたくなってきたので復帰させてみました。
 6話でちょっとやりすぎて、エンディングの状態とは離れつつある感じがしたのでちょと捻じ曲げると言うか。

 んなわけで今回は短めですが、次回から凛交えて四角関係で加速する予定なのでひとつ温かい目で見てやって下さい。お願い。

2004.03.05  右近