秋葉のヒロイン訪問シリーズ Vol.1「柏木千鶴」

 その日、やけにさわやかに目覚めた。
「ふわ〜〜〜〜あ」
 起き上がった後に体を思いっきり伸ばし、欠伸をする。
 続いて枕元にある眼鏡をかけ、壁にかかっている時計を見る。

 11:18

「……」
 昨日寝たのが夜の10時ごろだったと思うから、実に睡眠時間は13時間超。
 そりゃあ眠気もすっかり取れてさわやかに目覚められるというものだ。
「……」
 まあ、今日は学校も休みなのでこの時間まで寝ていても何ら問題はない。
 有間家にいたころはこの時間になっても起きないことさえあった気もする。
 しかし、当主の秋葉の元で規則正しい生活スケジュールが設定されている遠野家では、こんな時間まで寝ていられるということは珍しい。
 いや、っていうかほぼ皆無。
 そんなことを考えていると、部屋の扉をノックされた。
「志貴さま、お目覚めでしょうか」
「うん。今起きたところ」
「それでは、失礼します」
 そういう声が聞こえたかと思うと、扉を開けて翡翠が入ってくる。
「志貴さま、おはようございます」
「ああ、おはよう。翡翠」
 いつものように朝の挨拶を交わし、そのまま着替えの準備をしている翡翠に対して問いかける。
「こんな時間まで起こさないでいてくれるなんて、珍しいね」
「……いつも通りの時間にお起こしするべきだったでしょうか」
「あ、いや!そんなことないっ!ゆっくり眠らせてくれて凄く嬉しいよ。うん本当に」
 自分の何気ない言葉に眉根を曇らせ、申し訳なさそうに問い掛けてくる翡翠の言葉を聞き、慌てて全力で否定する。
しばらくそうしていると、翡翠もやっと安心したらしくいつもの表情に戻る。
「今日は秋葉さまが朝から外出なさっていて、姉さんが『たまにはゆっくり眠らせてさしあげましょう』と言いましたので」
「秋葉が?」
 琥珀さんの心遣いに対する感謝よりも、秋葉が外出したといいう現実に対する驚きのほうが勝った。
 俺この屋敷に戻って以来、休みの日に秋葉が外出したのなんて数えるほどしかない。
 それも大抵は誰かと連れ立ってのことであり、一人で外出したなんてことはなかったような気がする。
「はい。仕事に関る外出のようでしたが」
「あ、それならわかる」
 まあ、ああ見えて秋葉は遠野家の当主だ。
 遠野家の当主の仕事と言うのは決してぐーたらな兄をしかりつけたりすることではない。
 遠野家と、それに関る企業の運営に深く関る必要がある。
 そのために当主候補であった秋葉は幼いころから英才教育を受けてきたし、俺が有間の家に引き取られている間もそれは続いていたらしい。
 ……でも、長男の四季は俺や翡翠と遊びまわっていた気もするけど。
 まあ、そんなことはどうでもいい。
「なんでも、仕事のついでに人と会う約束があるので遅くなるとのことでしたが」
「ふーん。そんじゃ今日はぐーたらしてても文句は言われないわけだ」
「志貴さま?」
「ごめんごめん、冗談だって」
 俺の軽口に反応して困ったような顔をする翡翠を見て、慌ててフォローをする。
 翡翠は可愛いんだけど、こういう軽口が叩きにくくて困る。
「でも、その人ってどんな人なんだろ。翡翠は知ってる?」
「なんでも遠縁のかたで、旅館を経営されているとのことでしたが」
「ふーん」
 そんなことを話していると、階下から声が聞こえてくる。
「翡翠ちゃーん? 志貴さん、起きましたかー?」
「は、はい」
「じゃあ、朝ごは……もう昼ご飯かな?」
「はい。それではお待ちしております」
 翡翠はそれだけ言うと着替えを置き、一礼して部屋を出ていった。
「さて、と」
 俺もベッドから起き上がり、着替えて下に降りていく。
「今日の昼ご飯は何かなー、っと。」


 さて、そのころ。
 秋葉はある部屋で人を待っていた。
 今時珍しい典型的日本家屋。
 しかも塀の中には立派な庭を持っている、「家」というより「お屋敷」と表現したほうがふさわしいような建物である。
 まあ、遠野家の屋敷に比べれば大した事はないかもしれないが、今までこういった「和風のお屋敷」にあまり縁のなかった秋葉はそれなりに緊張していた。
 秋葉はそもそもあまり旅行はしないし、どちらかと言うと出歩かないほうなので、休日はほとんど自宅にいる。
 志貴が帰ってくるまでは浅上の女子寮にいたのだが、そこも洋室だった。
 遠野の屋敷の離れは確かに和室があったが、「豪華な和室」というのに今一つ慣れておらず、壁に書けられている掛け軸などをものめずらしげに眺めてみたりしている。
「どうも、お待たせしました」
 しばらくすると障子が開き、そこから一人の女性が入ってくる。
「今日は、急に押しかけてしまって申し訳ありません」
「いえ、いいんですよ。 会長職と言っても最近ではあまり仕事もありませんし」
 その女性はそう言ってにっこりと微笑んだ。
「どうも、お久しぶりですね。 前にそちらのお屋敷にお邪魔しましたけれど」
「ええ、最近は屋敷での親族同志の集まりもなくなってしまいましたから」
「じゃあ、今日は我が家でゆっくりしていってください。 あの時のお礼をしないと」
「どうもありがとうございます」
 女性が悪戯っぽい笑みを浮かべたのを見て、秋葉も笑みを浮かべながらそう答える。
「今日は泊まっていくんですよね?」
「ええ、こうやってお話するのも久しぶりですし」
 そう言って秋葉は姿勢を正しす。
「お世話になります。千鶴さん」
「はい、自分の家だと思ってくつろいでいって下さい」
 秋葉の礼儀正しい挨拶に、千鶴はそう答えた。


「まずは、ご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます。ごくごく身内だけの式にしてしまったので、お呼びできませんでしたけど」
「いえ、無駄に人を呼ぶより、そちらのほうがいいかもしれません」
 秋葉が当主を勤める遠野グループ、そして千鶴が会長を勤める鶴来屋グループ。
 共に有名な存在であり、結婚式などのイベントで人を集める時に、仕事関係や親類縁者を集めるときりがない。
 そういったわけで千鶴は自分の結婚式を内々で済ませた。
 まあ、それでも友人を集めたら結構な人数になったのだが。
「ええ、ちょうど半年前ぐらいですね。耕一さんが大学卒業するのと同時ぐらいでした」
「あの、こんなこと聞くのは本当に恥ずかしいんですけど……」
「なんですか?私で答えられることでしたらお答えしますけど」
 相変わらずの女神のような微笑み。
 秋葉には経験がないが、娘から恋の相談を受けた母親はこんな顔をするのだろう。
「あの……耕一さんって、女性に人気ありますよね?」
「ええ、耕一さんって優しいし、でもいざと言う時はしっかりしてて頼りになるし」
「それで、千鶴さんはその中で耕一さんを射止められたんですよね?」
「そんなこと言われると恥ずかしいじゃないですか」
 母親のような笑みを崩すことはないが、多少照れくさいのかほんのりと顔を赤らめてそう言う。
 千鶴のそんな仕種を見て、秋葉は次の言葉を一瞬躊躇する。
 しかし、どうしても言わなければいけない。
 この質問をするためにこの隆山まで来たのだから。
「どうやってライバルを蹴散らしたのか知りたいんです!」
 秋葉のとても真剣な顔を見て、千鶴は微笑ましいと思った。
 好きな男性ができて、どうしてもその人といっしょにいたくて。
 思い悩んで他の女性に相談してくる娘の顔。
 秋葉の言葉を遮らないようにしようと、何も喋らずに次の言葉を待つ。



「……その胸で」



 周囲に、まるで空気中の水分がすべて凍結したかのような冷気が漂う。
 さっきまで庭で囀っていた小鳥たちが慌てて飛び立ち、周囲の生物はわれさきにとこの場から離れて行く。
 千鶴がゆっくりと立ち上がると、それだけで家の土台がギシギシと悲鳴を上げる。

「待って!待ってくださいっ!!」
 突然の状況の変化に、慌てて叫ぶ秋葉。
 しかし、秋葉の目の前に立つ鬼はそんな言葉を聞きはしなかった。
「……あなたを、殺します」
 今まで戦った様々な相手、シキやシエル、さらにはアルクェイドとは比べ物にならないほどの殺気を感じて秋葉は立ちすくむ。
 その殺気は、本当の殺気。
 これに比べたらいままで「殺気」と称していたものは、まるで子供だましのようだった。
 「眼前に存在しているモノを殺す」それ以外の感情は一切込められていない、純粋な殺気。
 それは、七夜の力が目覚めた志貴の放つそれよりも、秋葉に恐怖を感じさせた。
「いくら遠野の人間が人を超えた力を持っているとは言っても、それは所詮『人を超えた』力。わたしたち柏木の力は対象を狩り、捕食するためだけに特化した狩猟者の力」
 言いながら千鶴が秋葉のほうに寄ってくる。
 一歩近づくだけで、秋葉の周りには濃厚に死の気配が忍び寄ってくる。
「……さようなら」
 そう言って千鶴は秋葉に向かって跳ぶ。
 秋葉はとっさに檻髪を発動させるが、鬼の力を目覚めさせた千鶴の動きは秋葉の視力を凌駕する。
 全ての物体から熱を奪う秋葉の力をもってしても、目標を視認できなければまるで対処のしようがない。
 千鶴は一息の間に眼前に迫り、その爪を振りかぶる。
 確実な死が間近に迫り、今まで生きてきた1日々が走馬灯のように脳裏をよぎる中、秋葉は叫んだ。


「私、73cmなんですっ!!!!」


 二人の動きが停止した。
 赤く光る、獲物を襲う狩猟者の目をした千鶴。
 脅えた、命の危機を前に脅えたような目をした秋葉。
 互いに見詰め合い、そして視線を下に落す。
 千鶴の爪は正確に秋葉の心臓を狙い、その直上で制止していた。
 ちなみに、秋葉の胸と千鶴の爪との間の距離は実に3mm。
 一歩間違っていれば鬼の爪は秋葉の胸を刺し貫いていた。
 っていうか、胸が人並みにあればざくっと貫かれていただろう。
 しかし、秋葉はその胸を裂かれ血を吹くこともなく、服が破れることもなかった。
 それどころか余裕まであった。
 さすが73cmは伊達じゃない。
 ビバナイチチ。
 すごいぞナイチチ。
 千鶴から殺気が消え、秋葉からも脅えが消える。
 そして、まるで久しぶりに再開した友人同士のように二人はがっしりと抱き合った。
 いや、友人というより親友。
 っていうか朋友。

 しばらくしてから熱い抱擁を解き、先ほどの千鶴の攻撃で蹴散らされたテーブルと座布団を所定の位置に戻して、二人は優雅に座り直す。
 ちなみに家具は無事。わざわざ頑丈なものを用意しているらしい。
 まあ、それでも千鶴が強く踏み込んだ畳だけは再起不能っぽいが。
「……話はわかりました。全て」
 落ち着いた、さすがは鶴来屋グループの会長と言った感じの声で千鶴が話しはじめる。
「ようするに、あのお兄さんを自分のものにしたいんですね?」
 そういって秋葉のほうを見つめる。
 直接的な表現に少し頬を赤らめながらも、視線をそらすことなくに、千鶴のほうを真剣な表情で見つめてこくりとうなずく。
 秋葉の真剣な表情を確認し、千鶴は言葉を続ける。
「しかも、周りにライバルが多いんですね?胸が大きかったり料理が得意だったり無口だけど凄くけなげに尽くしてくれたり」
 秋葉、再度うなずく。さっきよりも幾分力強く。
「やっぱり、わたしの時と似ていますね。それなら明確なアドバイスができます」
 アドバイスできることが本当に嬉しいのか、優しい、慈母のごとき笑みを浮かべて言う。
「これは私しか知らないことです。妹たちにも教えず、墓場の中に持っていくつもりでした」
 そう言いながら千鶴は立ち上がり、部屋中の窓と言う窓、扉と言う扉を全て閉めてまわる。
「秋葉さん、あなただから教えるのです」
 外に漏れる音を極力抑え、薄暗くなった部屋で静かに語り出す。
「理想の人を射止めるための方法を」
 そして、最後の扉が閉められ、中からは何の音も聞こえてこなくなった。



 それから一週間。
 俺は、それはもう自由を満喫していた。
 当初は日帰りの予定だった秋葉だが、なんだか急用が入ってしばらく泊まっていくことになったらしい。
 秋葉がいないと言うことは、俺の行動を制限する人間がいないわけで。
 有彦の家で徹夜で麻雀したり、アルクェイドのマンションに行ったり、シエル先輩とメシアンに出かけたり。
 屋敷の中では翡翠も交えて、琥珀さんの部屋でゲーム大会に興じてみたりと、それはもう遊びまわっていた。
 ちなみに今日はアーネンエルベで晶ちゃんとデート。
 ついつい話し込んで、屋敷に向かう坂を登るころには日もとっぷりと暮れていた。
「あー、ちょっと遅くなっちゃったなー」
 琥珀には夕食がいらないと伝えてあるのでそう言った心配は無いが、翡翠が門の前で待っていてくれたりするとやはり心苦しい。
 そんなことを考えながら坂を上がっていくと屋敷が見えてきて、門の前には人影も見える。
「翡翠、やっぱり待っててくれたのか」
 つぶやきながら、少しでも早くそこに行こうと駆け足で坂を登る。
 しかし、門の前まで来た時に意外なことに気が付いた。
「琥珀……さん?」
「だめですよ志貴さん、ちょっと遅くなりすぎですよー」
「ごめんごめん。秋葉がいないとどうも」
「志貴さま、それが……」
「え?」
「秋葉さまが、夕方頃に戻られたんですよー」
「あいたー……」
 それは予想外だった。秋葉が久しぶりに家に帰ってきて、その時に兄がどこにもいないわ戻ってこないわということになるとどうなるかは明らかなわけで。
 本当ならこのまま回れ右してほとぼりが冷めるまでどこかに潜伏していたいのだが。
「まあ、そういうわけにもいかないか」
 このまままた姿をくらませると、残される二人が不憫でならない。
「志貴さま……」
「まあ、考えてみればいつものことだしね。久しぶりに謝ってくるよ」
 いつもの笑みを浮かべ、自分たちの横を通り過ぎて屋敷に向かおうとする俺に向かって琥珀さんは、心配そうに声をかけてきた。
「志貴さん、気をつけてくださいね」
「? まあ、万一怪我でもしたら看病よろしくね」
 いつになく不安そうな翡翠と琥珀さんに対してそう言って、館のほうに向かった。
 庭を抜け、扉の前に。
 ごついノッカーのついた扉を開き、中に入るとホールが広がっている。
「秋葉は……居間か」
 物音こそしないが、他に誰もいない屋敷の中で唯一人の気配がする居間へと向かう。
 普段は翡翠や琥珀さんを交えて談笑するその部屋の前で一度大きく深呼吸をし、心構えをしてから部屋の扉を開ける。
「ごめん秋葉! ちょっと遅くなっちゃって!」
「秋葉が帰ってくるってわかっていればもう少し早く帰ってきたのに」
「温泉に行ってきたんだって? いいなあ、今度はみんなで行こう」
 部屋に来るまでの間に用意していた言葉を立て続けに言ってみるが、秋葉からの反応は無い。
「秋葉?」
 さすがに様子がおかしいことに気づいて、そう問い掛けてみると秋葉はゆっくりと立ち上がり、こっちをじっと見つめる。
「えーと、秋葉さん? なんだか様子がおかしいんですけれども」
「……ます」
「え?」
「あなたを……殺します」
 凄まじい殺気を感じて飛びのくのと同時に、それまで俺の立っていた床は消え去った。
「ちょ、ちょっと待て! たしかに夜遊びはまずいかもしれなかったけどそれぐらいで」
「兄さん、私は悩んでいたんです」
「え?」
「兄さんは、わたしがいくら思いを寄せてもひとつところにとどまらずにふらふらとしてばかり」
「いや、その、えーと、それはな?」
「あのバカ女やカレー司祭や翡翠や琥珀だけではあきたらず、最近は瀬尾はおろかあんな小さな子にまで」
「いや、だからレンは使い魔でな?」
「兄さんを私ひとりのものにするためにずいぶんがんばってきましたが、どうも相手を排除すると言う方法には無理があるらしくて」
「それがわかってくれるとお兄ちゃん本当に嬉しいんだが」
「だから、人生の先輩にアドバイスを受けてきたんです。兄さんをわたしのものにするにはどうすればいいのかを」
「はあ」
 気が付くと秋葉から殺気は失せ、いつもの調子で話している。
 俺もほっと一息つき、秋葉の言葉を待つ。
「その人は、私と近い状況でした。周りに様々なライバルがいるのに、意中の男性を射止めたのです」
「はあ、それはそれは」
「そして、その方法を聞いてきたんです」
「はあ」
 話が今ひとつ見えず、気の抜けた声で相槌をうつと秋葉はまた宣言する。
「……あなたを、殺します」
「ちょっと待ていっ!」
 さっきまでのは小手調べだと言わんばかりに紅く染まり、縦横無尽にうごめく檻髪を必死によけながら反論する。
「殺してどうする殺して!」
「その人は教えてくれたんです。『瀕死の重症になった男の人を誠心誠意看病すれば、きっとその人は振り向いてくれるわ』って」
「いやでも、秋葉はもうシキに殺された俺を助けてくれたじゃないか」
「そうです。とっても近い状況にあるんです。それなのに兄さんはふらふらふらふらと」
「いやそんな人をどっかの遊び人みたいに」
「その話をして、その人とじっくりと話し合ったんです。どこが違うのかって」
「で?」
 秋葉はにっこりと、今まで見たことがないような極上の笑みを浮かべて答えを返した。
「『やっぱり看病する前に自分で殺さなきゃダメね♪』って」
「ちょっと待ていっ!」
「大丈夫です!一度命を助けたことがあるんですから、次も大丈夫です!」
「大丈夫なわけあるかあっ!」



 そのころ、門の前にいるメイド姉妹。
「姉さん、大変なことになっているんですけど……」
「じゃあ翡翠ちゃん、止めに行く?」
 ふるふるふる。
 迷わず首を左右に振った。
 遠野家に使えているとは言っても、翡翠は主人二人とは違って普通の人間なのだ。
 今屋敷に入ったら骨も残らないだろう。
「まあ、秋葉さまも本当に殺しはしないでしょうから。秋葉さまが志貴さまを倒したらこれを使いましょう」
「その袋は?」
「琥珀印の強力睡眠香です。これを炊けば屋敷の中にいるひとは一発でおやすみですね」
「それじゃあ、今使えばいいんじゃ……」
「ちちち、それじゃあ志貴さんを看病できないじゃないですか」
 琥珀は、いつものように。いや、当社費50%増しぐらいの笑みを浮かべてそう言った。
「秋葉さまも意識不明になった場合、私たちが感応能力を使わないと志貴さんは死んじゃいますからねー」
「姉さん、わたし……」
「大丈夫よ翡翠ちゃん、お姉ちゃんがちゃーんと教えてあげるから」
 姉が妹に対してやさしく囁き、妹はそれを聞いて安心そうにこくりとうなずく。



 内容はともかく美しい姉妹愛を繰り広げている中、志貴の命は着実にピンチに陥っていた。
「だからちょっと落ち着けって!」
「寝たきりになったら、上から下まで全部お世話してあげますから!」
「人の話を聞け−ッ!!!」

 死闘は、夜を徹して行われたと言う。

初出:2002.11.08  右近