〜理緒〜 "monologue"


 チュン、チチュン。

 小鳥の囀りが聞こえる。
ベッドサイドに置いていた眼鏡をかける。腕を伸ばしてカーテンを開くと、サァっと
柔らかい朝の日差しが私を包んだ。

「ん、うぅん…」

 ベッドの上で軽い背伸びをしながら時計を見る。皆が起き出す時間まで、まだ余裕
があることを確認しながら、自分を包んでいるシャツを見る。

 私にはちょっと大きい男物のシャツ。

 朝の日差しを受けて、白いやわらかな光を反射している。そして、よく気を付けな
いと判らない本当にわずかな、男の人の匂い。

 「御主人様…」

 私の呟きは誰にも聞かれることなく、部屋の中に広がって、そして消えていった。

 お屋敷に入ってから、ずっと見ていた御主人様。
 目が会うと、いつも少しはにかんだ様な微笑みで私を見てくれる。私はその微笑がと
ても好きだ。
 だけど…。だけど、その微笑を見ると少しだけ胸の奥が苦しくなる。どんなにそばに
いても、どんなに一生懸命お仕えしても私の想いは届かない。もどかしくて、切なくて、
少し悲しくなる。

 いつかこの想いを伝える日がくるのだろうか。伝えられるのだろうか。

 「無理だろうなぁ」

 私の御主人様は、小さいながらもこの国では有数の財閥の御曹司。それに比べたら私
なんて、ただのお雇いメイド。あまりにも立場が違いすぎる。
 それに、御主人様は、私のことを名前で呼ぶことは無い。いや私だけじゃなく他のメ
イドも「君(キミ)」と呼んでいる。お屋敷の召使の名前は、すべて覚えているという
話なのだけれど…。私達の存在など取るに足ら無いということなのだろうか。

 「…ふぅ」

 軽くため息をついて、またシャツをみる。
 私は時々御主人様のシャツを羽織って一晩を過ごす。ご主人様はもちろん、他の人も
知らない私だけの秘密。届かない想いだけど、いつか届くようにと祈りながら…。

 コンコン。

 部屋のドアを軽くノックする音がする。

 「…?、お屋敷の皆が起きる時間にはまだ早いはずだけど…」

 訝りながらベッドをおりて、はだけたシャツの胸元を押さえてドアをそっと開けると、
そこには、

 「御主人様!?あ、えっと、お、おはようございます」
 「ああ、おはよう」
 「…?」

 どうしたんだろう。今までこういう事なかったのに…。少し開けたドアをはさん
でわずかな沈黙…。そして…

 「…入っても、いいかな」
 「あ、は、はい、どうぞ。でも着替えますから、ちょっと待って下さい」
 「いいよ、そのままで」
 「え?で、でも…」
 「いいから」

 半ば強引に押し切られて部屋に入られてしまった。そして部屋の中で見詰め合ったま
ま、また沈黙が訪れる。
 
 「あ、あの…、お茶でも、入れますね」
 「あ、ああ…」

 私は簡易キッチンでお湯を沸かしながら、自分の鼓動が早くなっていくのを感じてい
た。私の格好といえば、下着にシャツを一枚着ているだけだし、おまけにそのシャツは
御主人様のものだ。
 私のこと見ているのかな。シャツのこと気づいているのかな。どうしよう。などと考
えていると不意に後ろから抱きすくめられらた。

 「ひゃっ」

 突然だったので変な声をあげてしまった。

 「ごめん、驚かせたね」
 「い、いえ…」

 やわらかく、でも意外と力強く抱きしめられている。

 「このシャツ、僕の…かな」
 「はい…。すみません。勝手に…」
 「いや、いいさ。僕もその方が嬉しいし」
 「え…」

 意外な答えが返ってきて、私は思わず御主人様の顔を仰ぎ見る。いつものちょっとは
にかんだ、優しい微笑を浮かべて私を見つめている。

 「知っていたよ。君が時々僕のシャツを着ていたこと」
 「え…」
 「それに、君の気持ちにも、多分気付いているつもりだ」
 「あ…」

 私を抱いている腕に少し力が入る。

 「好きだよ。理緒…」

 …ドクン…

 その言葉はまるで電流のように、緊張していた私の心と体を駆け抜けた。

 「御主人様、今…」

 かすれる声で問い掛けなおす。足が震えて身体から力が抜けていく…。

 「好きだ。理緒」

 ゆっくりと、でも力強く繰り返された言葉。私のことを初めて名前で呼んでくれた。
そう気づいた時、私の頬を涙が流れた。届いていた私の想い。夢の様だけど夢じゃない。
その証に、薄いシャツを通して御主人様の体温を、そして鼓動を感じる。

 「御主人様…」

 抱きしめられていた腕が解かれて、私はゆっくりと振り返る。瞳を見つめると、その
優しい眼差しの中に私の顔が映っている。

 伝えよう。私の気持ちをきちんと言葉にして…。

 勇気を振り絞って瞳の中の私に向かって口を開く。

 「好きです。ずっと、ずっと前から、初めて会った時から好きでした。」

 震える声で告げて、目を閉じる。

 そっと私の肩に手が置かれて、そしてゆっくりと唇が重ねられる。頭の中がジンと
熱くなって、時間の感覚が無くなっていく。

 「ふ…あ…」

 どれ位そうしていたのだろう。長かったのか、短かったのかもよく判らない。ただ二人
共抱き合ったまま、お互いの気持ちを確かめることができた余韻に浸っていた。

 ボーン、ボーン、ボーン…

 柱時計の鐘の音にはっと我に返る。もう皆が起き出す時間だ。

 「…御主人様」
 「今夜、また来るよ。理緒」
 「はい…。お待ちしております…」
 「あ、それから…」
 「…?」
 「可愛いよ。その格好」
 「…は、恥ずかしいです…」

 あらためて自分の格好に気付いて、たちまち赤面する。
 軽く笑って部屋を出ていく御主人様。
 
 …さあ、私も着替えよう。
 
 シャツを脱いで、それをきゅっと胸の中に抱え込む。
 
 「ありがとう」

 想いを届けてくれたシャツに、一言お礼を言って着替えを急ぐ。

 朝食の支度を済ませ廊下に出ると、食堂の入り口でご主人様と会った。 
 いつもより、少し優しい笑顔を向けてくれた御主人様。

 少し顔を赤らめた私は、照れ隠しに明るい声と、とびっきりの笑顔で挨拶をする。

 「おはようございます。ご主人様っ」


あとがき

後書きなどっていうか苦しい言い訳(爆)

 色んな意味で恥ずかしい出来(T_T)。小学生以下の文章(T_T)。
 遠井さんやKNPさんの作品とは比較にならない位、稚拙な出来です(T_T)。
 
 乃木様の理緒CGがツボストライク(笑)したが為に、思わず書き始めたのですが…。
 このような稚拙な文章を最後まで読んでくださった皆様には本当に感謝×2です。

 次があるかどうかはともかく、もうちょい精進します(T_T)。

                             うえぽん 0:06 99/11/12